Interview
アートを通じて大人から子どもまで笑顔で楽しめる空間作りがしたい!
本格的にイラストレーター兼アーティストとして活動を始めたのは23歳の時。「それまでは、まさか描く事が仕事になるなんて思いもしなかった」と語るpokkeさん。堅実ながらも自分のスタイルを確立し、着実に夢を叶えている彼女の軌跡を辿った。
一つの出会いからバトンのように、次々と素敵な縁が舞い込んでくる
独学ながらも天性の素質と培われた実力を十分に発揮し世界中で活躍するpokkeさん。描く事とは関係のない進路を選んでも、 幼い頃からの本当の夢だった“ものづくり”の仕事に辿り着いた。イラストレーター・アーティストとして活動を広げる現在からは、想像もつかないほど堅実に歩んできた日々。そのすべてが今の彼女の礎となり、作品の魅力として表現されていると言っても過言ではない。誰をも惹きつける美しい容姿、素直でチャーミングな性格、優しく温かいだけでなく、内に秘めた芯の強さを持つpokkeさんのメッセージは、高校生のみなさんの心にもきっと響くのではないでしょうか。
動物に囲まれ、沖縄の文化に触れて育った子供時代
三姉妹の長女としてコザ市(現沖縄市)で生まれ育ったpokkeさん。近所に住んでいた祖父が“沖縄こどもの国”に勤めていた関係もあり、幼い頃からいろいろな動物のお世話をしてきた。「ある時は本部の方からヤギを譲っていただいたんですが、なんとお腹の中に二匹も赤ちゃんがいるヤギで、近所に住む獣医さんと一緒に出産に立ち会ったこともあります」。
また、こどもの国で飼育する動物の餌として自宅で飼育していたハツカネズミ(1,000匹)の餌やりは、pokkeさんの仕事だった。「生と死に小さな時から寄り添えたことも、現在の制作に大きく影響していると思います。動物に囲まれ、祖父母に可愛がられて、沖縄の文化に触れて育った子供時代でした」。。
夢はしょせん夢!?幼いながらも現実的に見つめる将来
pokkeさんの現在の活躍を見ていると、幼い頃からの夢を貫き、叶えてきたのだろうな……と思いきや、小さな頃からとても現実的だった。「子どもの頃の夢は二つありました。一つは“いろいろな国に行きたい”という理由からCA(客室乗務員)に。もう一つは、TVで放映されていた『裸の大将』の主人公である山下清のような旅人になりたいと思っていました(笑)。でも、子ども心にも分かっていたんですよね。それは夢に過ぎないって……。なので大人になったら、沖縄のホテルで働く人になりたいとずっと思っていました」。
子どもながらにしっかりと将来を見つめていた事にびっくりしたが、特別、絵に関わることもなく、小さな頃から好きだった“ものづくり”が趣味でもいいからできればいいと考えていた。
人生を変える恩師との出会い。それでも踏み出せなかった進路
中学卒業後、沖縄県立中部商業高等学校 国際流通科に入学。「高校は学力に合わせて選択したのですが(笑)、不思議なもので、フリーランスで活動するようになって商業で学んだことが活かされているなと感じますね」。
しかし、ここでpokkeさんの人生を変える素敵な出来事が待ち受けていた。それは、選択科目で専攻した美術の臨時の先生との出会いだった。「商業高校なので、周りに絵が好きな人も少なかったんでしょうね。美術の授業は先生を独占して、絵のことについてたくさん質問していました」。それまで眠っていた絵に対する想いが少しずつ強くなっていったのが、ちょうどこの時期だったと言う。
「先生は日本画家を専攻していたのですが、美術の事を何も知らない私に基礎を教えてくれました。それに学校だけじゃなく、休日にはデッサン教室に連れて行ってくれたりもして……。先生との出会いが、この世界に入るきっかけの一つだったと思います」。その後先生は、pokkeさんに中国の芸術大学への進学を勧めてくれたが、それでも現実的なpokkeさん、“絵で食べて行くのは難しい”と判断し、またしても絵とは関係のない進路を選ぶことになる。
動き出した未来。自分の本当にやりたい事が見つかった瞬間
「沖縄は観光業が盛んだし、人との触れ合いが好きなので、幼い頃から漠然と考えていたホテル勤務を進路に選びました」。18歳のpokkeさんは、昼間はホテルで働き、夜は旅行関係の専門学校に通うという、幼い頃から考えていた“堅実な夢”へ向かって歩み始めた。
しかし、それでもいつも心の片隅にあったのは、絵への想いだった。「やっぱり頭のどこかに美術の事があるんですね。だから専門学校の近くにある図書館に通い、美術コーナーにある本をすべて読み漁り、独学で勉強しようとしました」。
そして、転機は突然訪れた。「就職してから一年と経たない頃、ホテルの仕事でPOP作成していたんですね。その時、急にプツンと音が弾けるように気持ちが切り替わったんです。『制作がしたい!』もう、そう思ったら止まらなくなって、すぐにホテルと専門学校を辞めて、まずは職業訓練校に通い、印刷分野について学びました」。
職業訓練校で印刷について学んだ後、株式会社近代美術に就職。DTPを用いたデザインを担当し、県内各メーカーのチラシやポスターの制作にあたった。「近代美術には、本当にお世話になりましたし、独立した今でも色々と教えてもらっています。DTPの技術を学べたのも近代美術だったので、採用してもらえてありがたかったです」。思い立ったら居ても立ってもいられないpokkeさん。その行動力が、現在の活躍にも繋がっているように感じた。
たった2点で臨んだ初めての個展。自分を追い込んでスタイルを確立
近代美術で経験を積んだpokkeさんは、23歳で独り立ちすることに。フリーになりpokkeさんが最初に掲げた目標は、個展を開く事だった。「今振り返ると笑ってしまうのですが、どうしても個展が出したかったんですね。だから先に場所を押さえちゃったんです。実はその時点では、たった2点しか作品がなかったんですけれど……(笑)」。今だから笑って話せるのかもしれないが、場所を押さえたら、後は“やるしかない”という気持ちだったのかもしれない。
個展が決まってからは、来る日も来る日も作品を作り続けたという。「最終的には50作品展示できたのですが、その時に根詰めて制作したことが、自分のスタイルを確立するきっかけになりました。また、その個展に展示した作品が、HONDAのモデューロのweb広告で使用されたので、とても嬉しかったです」。それはpokkeさんのアーティスト人生で、大きな一歩を踏み出した瞬間だった。
第二のターニングポイント☆カイナアートフェスタでの仲間との出会い
その後も二ヶ月に一度のペースで展示会を開催し、精力的に制作に取り組み続けてきたpokkeさんは、遂に『カイナアートフェスタ』への出展を決意した。同フェスタは2001年から県内で行われているアートイベントで、毎回さまざまなジャンルのアーティストが一斉に集まるクリエーターの憧れの場所。pokkeさんも第一回の開催から足を運び、多くのアーティストや作品に感銘を受けたそう。そしてその二年後の第三回のフェスタにpokkeさんは出展し、それがきっかけで憧れだったアーティストの方々と肩を並べ活動を共にするようになる。
「カイナ出展を機に、たくさんのご縁に恵まれました。他のアーティストさんと組んでイベントを企画するなど、一人とはまた違う見せ方ができるようになりましたね。その頃から“人とは違う、誰もやったことのない展示会をやりたい”という気持ちが一層強くなりました」。
pokkeさんにとって第二のターニングポイントとなるカイナアートフェスタ。十年経った今でも、その時に出会ったアーティストと毎年のようにライブペイントを企画している。また、沖縄と馴染みの深い『モンゴル800』や『BIGIN』といったアーティストのフェスやライブでは、Tシャツのイラストデザインやオリジナルフィギア制作で協力した事もある。
「人との縁って本当に素敵で、一人と出会うと、またその次の人と繋がる。そうやってバトンのように次々と人と繋がり、輪ができ、仕事の幅も広がっていったように感じます」。pokkeさんの才能はもとより、みんなから愛され、慕われるpokkeさんだからこそ多くの人が集まってくるのだと感じた。
イラストレーターとしてのpokke104
~新たな発見と自分を成長させてくれる仕事~
現在はイラストレーターとして広告などを制作する傍ら、アーティストとしても活躍中のpokkeさん。
では、イラストレーターとアーティストの違いは、一体どこにあるのだろうか? 「イラストレーターは、クライアントから依頼されたものを制作する事。アーティストは、自分が納得のいくものを作る事だと思っています」。
アーティストとしてその事に戸惑いはないのかと尋ねてみると…「何回もやり直すことはありますが、まったく苦ではありません。むしろ、自分の見えない世界を教えてもらったり、弱点を指摘してもらえるのでやりがいがあります!」。
実際、つい最近も海洋博公園からの依頼があったそうだが、一言で“海で泳ぐ魚を描く”と言っても、地域ごとにしか生息しない魚がいたり、季節や気温差、海の深さによっても描く魚が変わる事を調べて学んだそう。「絵を描く事で勉強になる事がたくさんあります。それに自分の知らない世界を見たり、調べたりするのって本当に楽しいんです」と、まるで初めて発見した物事に目をキラキラさせて喜ぶ子どものような表情で教えてくれたpokkeさんからは、イラストレーターの仕事を心から楽しんでいる様子がうかがえた。
アーティストとしてのpokke104
~“アート×コミュニケーション”の実現~
次に、アーティストとしての活動について尋ねてみると…「独立したときからワークショップを開催してきました。もともと私がやりたかったのは、“絵を通して大人から子どもまで多くの人とコミュニケーションを図る事”です。やり始めたばかりの頃は認知度も低く、クライアントからもあまり受け入られなかったため、最初はボランティアのような形でワークショップを開催していました」。
絵を通してコミュニケーションを図る…そのための空間作りとして行っていたワークショップ。始めた頃は、なかなか理解が得られず自分で材料を調達し、イベントを開催した事もあったそうだが、そんなpokkeさんの地道な活動が実を結び、次第に周囲の心を動かして依頼が舞い込むようになったそう。
他にも、pokkeさんが得意とする壁画ペイントやライブペイントの依頼も年々増加中だ。「Facebookを見てミラノから壁画のペイントの依頼が来た事もありましたし、ライブペイントは国内外合わせて100回以上は開催させて頂きましたね。ある時は会場に足を運んでくださったファッションブランド会社の方からデザインを提供して欲しいというお声を掛けていただき、洋服やバッグ、靴などの商品にデザインの提供をさせて頂きました」。
世界中を見てみたい!言葉ではなくアートで通う心
現在は東京と沖縄に拠点を置くpokkeさんだが、多い時は毎週各地でイベントを開催中。そんな多忙なpokkeさんの趣味は、旅行だそう。「せっかく行くなら、その土地土地で何かしら得たいと思うんですね。その国の文化だったり、現地の人との交流だったり、あるいは自分の活動と何かリンクさせられるのではないかと思い、旅行に行く前から何をしようかいろいろ考えています」。
例えば、前回のオーストリア旅行では、アボリジニアートのワークショップがちょうど開催されることを知り、車でオーストラリアをラウンドする計画に予定を加え、参加してきた。他にも台湾ではカジマヤー(風車)を作るワークショップを開催したり、ロンドンでは200人の小学生を相手に、言葉が通じない中でもワークショップを成功させてきた。pokkeさんが幼い頃から憧れていた“世界中を旅していろいろな人に出会う”という夢も、着実に実現させていっている。
どこに行っても助けられる沖縄県人会。世界中のうちなーんちゅに感謝!
国内外で活動するpokkeさんのそのバイタリティーはどこから来るのか? 見知らぬ土地への不安はないのだろうか? そんなことをふと尋ねてみると、「どこに行っても沖縄の県人会があるんです!」と即答。「毎回、県人会の方たちに助けられます。実はミラノの壁画のお仕事も、たまたまオーナーが沖縄とペルーのハーフの方だったり、ロンドンでお世話になった人もうちなーんちゅ(笑)。台湾や香港でもうちなーんちゅや日本人好きな人だったりと……すごいですよね」。pokkeさんが困ったり悩んだりしていると、いつも手を差し伸べてくれるうちなーんちゅが、その場所には必ずと言ってもいいほど存在する。「世界のうちなーんちゅ大会があるように、小さな島から出た人たちが力を合わせて頑張るぞ!という目に見えない強い絆のようなものを感じます。まだ見れてない国がたくさんありますが、外に出ていろいろな人に出会うたびに、“日本人でよかった。沖縄に生まれて良かった。”そんな思いになります」。
考え方一つで進む道も変わる!すべての経験を明日の糧にしよう!!
「私は学生時代の結婚式場のアルバイトで、大きな声で自分から挨拶することを徹底的に叩き込まれました。当時はとても辛かったんですが、その時の経験により、私は挨拶という武器を得ました。人間、良い時ばかりではありませんが、そんな時に私が元気になる言葉を最後に紹介したいと思います。
『何かが起こったとき、そのことに対する気の持ちようや考え方で、自身の受け止め方や行動が違ってきます。
そのときにどう思うか、どう考えるかで人生は大きく変わるものです。
そのどう思うか、どう考えるかを支えるのが自分の経験と、『言葉の力』だと私は思っています。』
これは松下幸之助さんの言葉ですが、物事の考え方、受け取り方一つで気持ちも進む道も変わります。みなさんも自分のやりたい事を実現するために、上手に発想の転換をしながら未来を切り開いていってください!」
GO TO SCHOOL!! 2015 Life 夢実現インタビュー pokke104
Profile
イラストレーター/アーティスト
pokke104 池城由紀乃 Yukino Ikeshiro
1980年コザ市(現沖縄市)生まれ。
見たモノ感じたモノを心のポケットに入れ、作品を通して発信できるようにという想いを込め、“pokke104(イチマルヨン)”というネーミングで活動。
pokke104の104は「ポッケに“イレヨ”」の意。形にとらわれない自分らしいスタイルで、広告媒体等のイラストレーション、店舗壁画、ライブペイントなど、そこにいるみんなの想いを同じ空間で発信する「アート×コミュニケーション」をテーマに、ワークショップを開催しながら国内外で活躍中。
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Catch the Dream 2015.10