【千葉商科大学】時代を映す 新しい消費のカタチ-「ボランタリー・シンプリシティ」と「エシカル消費」-(全5回) 第3回 消費者を知る「ミニマリストとエシカル・コンシューマーのリアルな姿」

「消費」と「サステナビリティ」、そして「幸福感」を両立するヒントを探るため、本学商経学部の大平修司教授と考察してきた2つの消費スタイル「ボランタリー・シンプリシティ(=ミニマリズム)」と「エシカル消費」。連載第3回では、それぞれのスタイルを実践する人々の考えや暮らしぶりを見つめ、消費者のリアルな姿に迫る。

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【第3回】[Style3:消費者を知る]
ミニマリストとエシカル・コンシューマーのリアルな姿

多様化するミニマリストの姿

ミニマリスト(ミニマリズムの実践者)と聞いて、どのような姿を想像するだろう。

「部屋には家具がほとんどなく、ガランとしている」
「服はシンプルなものを数着だけ持ち、着回す」
「衣食住のすべてに無駄がない」

こうした、ストイックなイメージを持つ人が多いのではないだろうか。しかし、消費者行動研究が専門の大平修司教授は、昨今、ミニマリストはもう少し広い意味で捉えられるようになってきている、と言う。

大平教授によると、ミニマリストの姿は、「時間」と「程度」の2軸思考で表せる(次表)。数年前まで、ミニマリストはマトリクスの右上にしか存在しないと考えられていた。さきほどのイメージにあるような典型的なミニマリストだ。しかし今はすべてのマスにミニマリストが散在し、そのスタイルは多様化しているという。

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新しい価値観「ポジティブ・ミニマル」の登場

例えば、東京都在住の主婦で、『脱力系ミニマリスト生活』(KADOKAWA2017年刊行)の著者・森秋子さんは、片付けや断捨離に難しいルールは設けず、マイペースにモノを手放してきた。自分にとって心地いいモノとの付き合い方をゆるく追求する日々を、てらいなくブログに綴り、読者から支持されている。

新型コロナウイルスの影響で多くの人がステイホームを余儀なくされ、生活スタイルを見直すようになったことも、ミニマリストの多様化を後押しした。株式会社ネイチャーズウェイが2020年11月に行った調査によると、「非ミニマリスト」の68.7%がミニマリズムに好感を持ち、42.2%が、「日々の意識として、モノを少なくすることを重視している」ことがわかった。

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出典:ネイチャーズウェイ「ライフスタイル意識調査」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000095.000012734.html)

このように、徹底的にモノを減らすわけではないが、それでも「余分なモノをなくして、自分にとって本当に価値のあるモノを選びたい」という人が増え、そうした前向きな考えは、「ポジティブ・ミニマル」という新たなスタイルとして確立されつつある。

ミニマリストに決まったカタチはない、と大平教授は強調する。

「以前、複数のミニマリストにアンケート調査を行ったのですが、意外だったのが、『自分がミニマリストだと自信をもって言えない』という声が多かったことです。世間が考える典型的なミニマリストほど徹底できていないから、というのが理由でした。

そもそもミニマリズムは、自分の心を豊かにするためにモノを減らすこと。人によって、心が豊かな状態や、モノに対する必要最低限の基準は異なるため、ミニマリズムのスタイルは千差万別なのが当たり前です。極端なイメージにとらわれる必要はありません」

【実例】ミニマリストの暮らし

世間から関心を集め、多様化するミニマリスト。彼らは、ミニマルな暮らしに何を求めているのか。実例から考察してみたい。

1. とにかく家事を減らしたい ママミニマリスト

<story>
仕事と家事と育児の両立で多忙を極め、余裕のないワーキングマザー。もっと穏やかな心で家族と過ごす時間を持ちたいという強い思いから、日々多くの時間を割いている掃除や洗濯、片付けを減らすために、家具をはじめ、食器、衣類、子どものおもちゃなどの断捨離を始めた。おもちゃがあった頃は片付かない部屋を見て怒ってばかりだったが、減らしたことでストレスが軽減し、子どもとゆっくり話す時間が増えた。子どもは木の枝や石ころなど自然物で工夫して遊ぶようになり、季節の移り変わりを楽しみ、虫や鳥の声に耳をすませるようになった。

2. 必要なものにはお金を使う 限定豪華主義ミニマリスト

<story>
4畳半の部屋に一人暮らし。月の生活費は数万円。冷蔵庫やテレビを持たず、床に寝る生活を送っている。余計なモノにお金を使わないからこそ、本当に必要だと思うモノにはお金を惜しまずに使う。例えば毎日何時間も使うスマートフォンは、最新の高額なものを選び、毎年買い換える。また、幸せの第一条件と考える「健康」を維持するために、サプリメントや栄養価の高い食品にもお金をかけている。

3. 片付けからの解放 うつ病を克服したミニマリスト

<story>
何事に対しても頑張りすぎてしまい、ストレスから心の病を発症。家が少しでも散らかっていると、完全に片付けないといけないという強迫観念にとらわれてしまう。そこでモノをとことん減らしてみると、片付けの必要がなくなり心が楽に。そうした生活を送っているうちに、生きづらさから解放されて病が癒えた。

モノを減らしてできた「余白」がもたらすもの

上記のどのケースも、家事からの解放、家族との時間、節約、モノへのこだわり、病気の克服など、それぞれに異なる背景や思いを持っている。もちろんこの事例はほんの一部であり、世の中には多種多様なミニマリストが存在するのだが、共通して見えてくるキーワードは「余白」だと大平教授は言う。

「ミニマリストには自分にとって大切なものがはっきりとわかっていて、それにお金や時間、体力を注ぐための『余白』を、モノを減らすことで作り出しているのです」

ミニマリストの名付け親である佐々木典士さんも、著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス2015年刊行)の中で「ミニマリズムは『目的』ではなく『手段』である」と述べている。

また、辰巳渚さんが書いた『ミニマリストという生き方』(宝島社2016年刊行)に登場するミニマリストたちは、モノを減らす理由についてこう述べている。

「モノを減らすことで自分はほんとうに好きなことをやっていいんだと思えた」
「モノから無意識に受けるストレスがある。以前と比べて、自分が 『やろう』と思ったことに対しての行動力はついたかな」
「モノを持つと考えなきゃいけないことが増える」

こうした言葉からも、ミニマリストにとってモノを減らすことは決してゴールではない。減らすことで生まれた余白を使って、本当に自分がしたいことを実現する、そんな姿が浮かびあがってきた。

共起ネットワークから見えるエシカル・コンシューマーの思考

続いてエシカル・コンシューマー(エシカル消費の実践者)について見ていきたい。

連載第2回で、昨今のエシカル消費ブームは東日本大震災が大きな分岐点になったことに触れた。エシカル・コンシューマー自体は震災のずいぶん前から存在したのだが、認知度が低く、例えば「無農薬野菜を好む」=「禁欲で質素な生活」「ヤマギシ会(※)のような宗教的な活動」といった、あまりよくないイメージと関連づくことも多かった。

※ヤマギシ会:正式名称「幸福会ヤマギシ会」。1953年に発足。全国各地と世界数カ所にある集団農場で、会員が「所有」の概念を否定した「無所有一体」という思想のもと、有機農業に勤しみながら共同生活を送っている。

大平教授は2013年、エシカル・コンシューマーの実態を探るために、インタビュー調査を実施。当時エシカル・コンシューマーの中心と考えられていた20~50代の既婚女性およそ1,300名から、エシカル消費を実践する複数名を選出し、きっかけや行動の特徴などについて分析している。

調査では、エシカル消費を始めたタイミングを東日本大震災の前後でグループ分けし、参加者の発言から出現頻度の高い言葉を抽出した。すると、「社会的課題の解決」に関連するものとして以下の言葉が頻繁に発言されていた。

震災以前のグループ…寄付/フェアトレード/オーガニック/ユニセフ/ボランティア
震災以後のグループ…寄付/募金/震災/リサイクル/ソーシャル・プロダクト

さらに、頻出ワードとともに発言される傾向が高い別の言葉を、線で繋ぐことで思考を視覚化する「共起ネットワーク」分析を行うと、次のような結果になった。

エシカル・コンシューマーの共起ネットワーク

<震災以前>

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<震災以後>

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出典:『消費者と社会的課題』大平修司著(千倉出版2019年刊行)

2つのグループを見比べると、震災前後で共通するものとして「子ども」との関連性があげられる。

インタビューでも、エシカル消費のきっかけとして子どもの誕生をあげる人は多く、「子どもに体にいいものを食べさせたいという気持ちからオーガニックや放射能に汚染されていない食材を購入するようになった」「子どもが生まれてから児童労働問題を無視できなくなり、寄付付き商品を購入するようになった」といった声が目立った。

また、震災後のグループの特徴として、テレビCMを通じて社会的課題を理解していることもわかった。前回の記事で述べたが、震災をきっかけに企業が社会的な活動やそのPRに精力的になったことを考えると、この関連性は納得できる。

さらに、震災前のグループが「寄付」や「ボランティア」といったシビック・アクションと「思う」という言葉が関連づいていることに対して、震災後のグループは「募金」という言葉から「行く」「できる」という言葉につながっている。震災を境に、社会に対する思いを、具体的な行動に移すようになったということだ。

実際に、日本ファンドレイジング協会によると、東日本大震災前年の2010年、日本の金銭寄付総額のうち「個人」による寄付総額は33.7%だったのに対し、2011年は68.6%と大幅に増大している。

「いい人に見られたくない」~本音の背景にある陰徳文化

もう一つ、インタビュー調査で明らかになったのが、エシカル・コンシューマーが自身の消費行動を周囲に多く語りたがらないということだ。

その理由は以下のようなものである。

「いい人に見られたくない」
「周りを正そうとは思わない」
「自分が満足できればいいので、人にひけらかしたり強要したりしたくない」
「意見が合わなかったときに対立したくない」

こうした傾向について大平教授は、日本に古くから根付く「陰徳文化」が影響していると分析する。

陰徳文化とは、善いことは隠れて行うことを美とする日本独自の文化だ。現に経済団体連合会編(※)は、社会貢献を「陰で善行を積む行為」と位置付ける企業が多いと述べている。

「このような企業の考え方は、消費者にも転移します。なぜなら、消費者の多くは、消費者であると当時に企業で働く社員であり、企業のそういった姿勢が個人の行動にも影響を与えると推察できるからです。
もちろん昨今の日本企業はSDGsを意識し、訴求や啓蒙活動にも積極的になっています。しかし、老舗の企業などは古くから続いてきた考えを完全に払拭することは難しい。いまだ多くの企業、そして消費者のなかに陰徳文化の影響が残っていると考えられます」

    1. (社)経済団体連合会編(1992)『社会貢献白書:企業と社会のパートナーシップ』(日本工業新聞社)

移り変わるエシカル消費の牽引者~主婦からZ世代へ

ここ数年、エシカル・コンシューマーの中心が女性や主婦から若年層へと変わってきていることにも大平教授は言及する。

特に、1990年代中盤以降に生まれたZ世代は、義務教育の段階からサステナビリティや地球環境問題などについて学ぶ機会に恵まれ、社会貢献への意識とともにエシカル消費への関心も高い。

それは、電通グローバル・ビジネス・センターと電通総研が行った「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」からも明らかだ。「商品購買時に環境への負荷を意識するか」という項目において、全世代の日本人よりも若年層のほうが意識していることがわかっている。

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出典:電通報「エシカル消費をリードする日本の若年層。その消費と価値観に迫る!」(https://dentsu-ho.com/articles/7976#index2)

Z世代はデジタルデバイスのある環境のなかで育った「デジタルネイティブ」とも呼ばれる。SNSを通じたコミュニケーションを好み、先のインタビュー調査に参加したエシカル・コンシューマーとは異なり社会問題に関する情報発信にも抵抗が少ない。

博報堂の「生活者のサステナブル購買行動調査2021」では10代20代の男性、10代の女性において、「社会問題について家族や身近な人たちと話し合う」「社会問題について自分の考えや意見をSNSなどで発信する」という項目で、全世代の平均よりもポイントが高くなった。

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出典:博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2021」(https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2021/08/20210827.pdf)

「これまで同様、家庭を持つ女性もエシカル消費を大きく動かす存在ですが、同時にZ世代が今後、エシカル消費のマーケットをリードしていくことは疑いようがありません。情報発信に長けた若年層が世間に与える影響力は大きく、アパレルブランドを中心に世界中の企業が今、彼らを意識した商品開発へと大きく舵を切っています」

「社会への配慮」と「かっこよさ」、どちらも両立したエシカル・プロダクトは、若年層の心を掴み、今後ますます存在感を増していくだろう。次回は消費者から企業へと視点を移し、サステナビリティへの配慮を示す販売戦略や、消費で社会問題を解決するためのプラットフォームなど、いくつかの事例をあげながら、エシカル消費を促進する企業努力を探る。

大平修司(おおひら・しゅうじ)
商経学部教授。日本のボランタリー・シンプリシティ研究の第一人者。専門はマーケティング、消費者行動論。著書に『消費者と社会的課題』(千倉書房)、『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(NTT出版・共著)など。普段から積極的に有機野菜や寄附つき商品、コートやジーンズは本当に気に入ったもの、長く使えるものを選ぶようにしている。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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